原田メインプログラマーからのご挨拶
 凍て付く寒さも、時機にやってくるであろう十二月。彼はしかし、暖房の効いた部屋の中に閉じこもってパソコンのキーボードを叩いていた。見つめる先には今時には珍しい、大きなカソード・レイ・チューブが、今時の液晶ディスプレイでは表示できない微細なピクセルを並べている。グラフィカル・ユーザー・インターフェースのオペレーティングシステムは、いくつものウィンドウを並べ、それらには細かい文字が犇めいている。

 彼がキーボードを叩けば、ウィンドウの一つに文字が増えていく。英文のようでありながら、それはしかし英語ではない。高校生の時分に英語学の成績が並以下だった彼は、英語の読解など出来る筈も無かった。そして、其の英語ではない文字の羅列を打ち続ける事が彼の生業の一つでもあった。

 一年程前の出来事だった。ひょんな事から彼は、或る青年の呼びかけに応じて一つのプロジクトに参加する事になった。程なくして年を越し、今年の春からまた別のプロジェクトに参加する。そのプロジェクトこそが、「ルミナスアーク」というタイトルになるニンテンドーDS用ゲームソフトの企画開発だったのだ。

 与えられたパソコンに、自前で用意した業務用ヘッドフォンを繋ぐ。幾つも用意した音楽ファイルをハードディスクドライブの中へ書き込み、グルーヴに浸りながらロジック構築とデータデザインを繰り返す。やがて其れをコーディングし、コンパイルし、リンクする。
幾度かの試行錯誤を繰り返せば、やがて其れはプログラムとして完成する。デザイナーが用意したグラフィックリソースが、彼の使っているカソード・レイ・チューブの表示面積の六十四分の一しかない液晶ディスプレイにアニメーションするようになる。またサウンドリソースも、小さなスピーカーから鼕々と流れ出す。

 しかし其れだけではプログラムとして完成してはいるものの、ゲームソフトウェアとして成立しているとは言い難い。其処からが、プログラマーとゲームプログラマーの違いであり、本領を発揮するべき部分だ。この部分に如何に注力するか、どれだけ丹念に作り上げられるかが、ゲームとしての本質に成って行く。

 そして最後に複雑多岐になっていくプログラムを、ゲームソフトウェアとして完成させるための作業、つまりデバッグが片付けばプロジェクトは終焉を迎える。彼はその終焉へ向けて、今夜もキーボードを叩いているのだ。

 縦しんば、些か順序が狂ってしまったり、予期しない出来事が起きたとしても、其れに動じず只管に作業を続ける。そして此処にこうしたものを書かなかったとしても、彼は完成を見れば、何処か酒場の片隅で煙草を燻らせ、薄暗い照明に輝くグラスを片手に微苦笑を浮かべながら何かを語るだろう。

 そして其れがこの乱筆駄文よりも更に砕けていることは間違いないだろう。しかし其れに反比例して密なものになることもまた、間違いない。

 彼が何処で、誰とその様な笑みを浮かべるのかは、まだ誰にも判らない。凡そ二月だという事は、此れを読んでいる人々には理解できると信じている。

 彼は今、只誰かしらの笑顔が厳冬に浮かぶことを願うのみであろう。

…いや、もう一つあった。甲斐性無き彼を抱擁する温度を求めていた。
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by luminousarc | 2006-12-04 20:01
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